道中トーマス氏がカフェについて説明してくれます。私の英語力では、どうもカフェのオーナーが非常にユニークだという事しか分かりません。カフェオーナーは上半身裸でコーヒーを入れている。そして、自分のわきを指し示し臭いという表情をします、その腋臭の臭いとコーヒーの香りが混ざっている面白いカフェだと笑いながら話してくるのです。
正直、どのようなリアクションをしてよいか本当に困りました。ただ、コーヒーは抜群に美味く街一番と太鼓判を押す勢いです。私はインドネシアのカフェがどういうものなのか、見当もつきません。しかし、街中には食堂のようなオープンテラスのお店がちらほらと目に付きました。
いよいよカフェに到着です。
いきなりスキンヘッドで刺青をいれた強面の厳つい男性が上身裸でコーヒーポットを頭上高く上げて、ポットからポットにコーヒーを移しているのです。
どう考えても、このカフェ絶対に日本人は私たちが初だと思います。スキンヘッドで刺青をした強面の厳つい人が、上半身裸でコーヒーポットを振りかざすお店に日本人観光客などまず入るわけありません。どうみても、もの凄くヤバイお店としか思えません。
お店はすでに満席に近い状態でした。オープンテラスの席は埋まっています。ところが、通りに近いオープンテラス席だけ違うオーラがあるのです。
突然、トーマス氏が驚きと喜びの笑顔で私たちに、「お前たち凄くラッキーだ!」というのです。
こちらは何がどうラッキーなのか?皆目見当もつきません。上半身裸で刺青を入れた強面のスキンヘッドがコーヒーを入れているカフェに入るや否や、凄くラッキーだと言われても意味が分かりません。
私たちは違うオーラを出しているオープンテラスのテーブル席に案内されました。そして、既に着席している方々の中で、一番偉い方と思しき口髭を蓄えた男性から挨拶と握手を交わしました。そして、なぜか私たちも同席させられたのです。まったく意味が分かりません。
トーマス氏の紹介で、私たちは日本からビジネスで来たという事で、先方も珍しい日本人という事らしいのですが、トーマス氏より紹介された一団の一番偉い方の肩書を知ったときには・・・目が点になりました。
口髭を生やし威厳を保ち、周囲の人の意見をただうなずいて聞いている方は、カリマンタン島の二つの州を管轄する二つ星の将軍だったのです。
カリマンタン島は5つの州に分かれています。その内2番目と3番目に広い面積の州を管轄している将軍なのです。東南アジアでは軍は絶大な力を持っています。ようするにこの方はカリマンタン島で絶大なる力を持っている権力者なのです。それは、街の所々に軍の看板を見るのですが、よく見ると、何とそこには目の前将軍が描かれているではないですか!
そう、彼は超VIPなのです。
さらに、将軍の右側にいる笑顔が優しい男性は、何とポンティアック市の軍司令官であり階級は大佐です。こちらもVIPであり、気軽に話しかけられる相手ではありません。
妙な視線を感じるので周りを見渡すと、周囲のお客さん達は、私たち一団をチラ見で見ているのです。
そうこうすると、コーヒーがやって来ました。インドネシアのコーヒーは、真っ白いカップに熱い濃い目のコーヒーです。そして、カップ内にはあらかじめ砂糖が入っていて、飲むと底に砂糖が沈殿しています。砂糖がじっくり溶けだすことで、濃いコーヒーと混ざって絶妙な味を醸し出します。
現地では、あらかじめコーヒーカップに砂糖を入れて、濃い目の熱いコーヒーを時間をかけて飲むのが習慣のようです。スプーンでカップをかき混ぜず、じわりと溶ける砂糖との絶妙なバランスがコーヒーを楽しみ味合う秘訣のようです。そして、日本のチマキのようなものが出されました。皮をむくと、中身はもち米とバナナを蒸したものです。一瞬えっ? と思いましたが、食べてみると美味しく、これが実に濃いコーヒーとよくあうのです。
同席者の中にはトーマス氏の友人もいました。が、彼から突然相談受け面喰いました。なんでも、熱帯魚のアロワナを日本に輸出していたそうです。当初はビジネスとして上手くいぅっていたようですが、どうもアロワナを輸出したにもかかわらず、代金を支払わずにいる日本人の業者がいるようなのです。どうも茨城あたりの業者のようで。茨城は近いか?と尋ねられましたが、どう返答してよいか分からず、とっさにジャカルタとカリマンタン島くらい遠いというと、しぶしぶ諦めたようでした。後で聞くと、日本人が来るという事で、どうも私に代金の取り立てを依頼したい思惑だったようです。
そういえば、アロワナは一時高額で取引されてブームだった記憶があります。そのアロワナはインドネシアから輸出されていたとは知りませんでした。ブームが去ると値崩れするのは世の常です。しかし、代金未払いという、そのような話をされると日本人として恥ずかしい気持ちになりました。
さて、VIP将軍の朝カフェも終了して帰る頃になると、真っ黒な厳つい軍のランドクルーザー2台がカフェの前に横付けにされました。先頭の車両には二つ星の将軍用。後続のもう一台は大佐用です。 将軍が車に向かって歩き始めると、今までチラ見で、見て見ぬふりしていたカフェのお客の何人かが駆け寄ってきて将軍に握手を求めてきたのです。
そう、将軍は現地ではかなりの人気者のようです。帰る前に将軍達と数枚の記念写真を撮りました。そして、私たちに別れの挨拶をして、颯爽と去っていきました。するとトーマス氏とトーマス氏の友人が写真を是非転送してくれと力を込めていうので、快諾し転送してあげました。これには理由があります。
このインドネシアでは、権力者の誰誰を知っている。権力者の誰誰と友人関係にある。という事が非常に重要なことのようです。ですから、この写真はお守りみたいのもので、いざと言うときに、この写真が水戸黄門の印籠のような役割を果たすようです。私と先輩はカリマンタン島のVIPと一緒という事で強力な印籠がここで手に入った訳です。
将軍たちの一団が去ったあと、私たちもホテルに戻り、遅めの朝食を済ませホテルを後にしました。
いよいよ営巣(バーズハウス)のある場所へ出発となります。