さっそく福岡検疫所食品監視課へアポイントメントを取り、試験結果報告書を持参して意気揚々と訪問しました。
「厚生労働省福岡検疫所食品監視課にて」
私「ツバメの巣の分析を行いました。このように試験結果報告書では安息香酸、ソルビン酸、二酸化イオウはまったく検出されませんでした。」喜んで話を切り出すと・・・
思いもかけない切り返しにあいました。
食品監視課「その試験結果は、今あるサンプルの試験結果ですね。輸入しようとするツバメの巣の試験結果ではないですよね。」
私「はい、その通りです。現状サンプルしか調べようがないので確かにサンプルの試験結果です。しかし、輸入しようとするツバメの巣と同じ産地で同様のものです。前回、どんな成分が入っているのか調べることが必要との事でした。そこで、時間とコストをかけてこのように検査機関に依頼し試験を行い、安息香酸、ソルビン酸、二酸化イオウはまったく検出されませんでした。」
食品監視課「実際に輸入するツバメの巣が、
① どのような環境で作られているのか?
② どのような水を使っているのか?
③ 衛生管理はどうなっているのか?
これらが分からなければ話は進められない。」という、とても厳しい態度です。
(前回と話が違うじゃん!)
色々と多方面に奔走しながら、ようやくツバメの巣の試験を行い、化学物質の混入は検出せずとの結果が出ているにもかかわらず、何故に、こんなに厳しい態度で対応されるのかと、その時はお役所仕事の対応に正直怒りが込み上げてきました。
その時、なぜこのような厳しい態度が必要なのか?それは、食品監視課の立場から考えるようにすると分かります。そこには、国民の食の安全をしっかり確保しようという国の姿勢が垣間見えるのです。それは、日本の食料自給率は、カロリーベースで約40%。ほとんどが輸入に頼っています。
検疫所には輸入不許可になった食品の理由と内容が一覧として閲覧できるようになっています。日本は毎日膨大な食品を海外から輸入しています。その全てを検査するというのはマンパワーからして不可能に近く、抜き打ち検査や、ある特定の地域からの輸入品や、輸送ルートなども加味して検査を行っているようです。
コンテナで輸入していたコーヒー豆が、コンテナの扉の不具合から雨水が侵入してしまい、カビが生えてしまった状態の記載がありました。当然輸入は不許可です。40ftのコンテナ一杯のコーヒー豆が全て廃棄処分となります。その輸送コストや廃棄量のコストを考えると、膨大な損失です。
その他の食品に関しても、カビや破損による傷みなどで輸入不許可になっている輸入食材がコンテナ単位で記載があります。
どうして輸入食品に安息香酸やソルビン酸や二酸化硫黄規制されているのか?
それは以下の理由からです。
安息香酸:水によく溶け、各種の微生物に対して増殖を抑制する効果のある防腐剤の役割です。
ソルビン酸:抗菌力はあまり強力ではないが、水によく溶け、カビ、酵母、細菌と幅広い効き方をする、こちらも防腐剤の役割です。
二酸化硫黄:食品の色調を整えるため、原料などに含まれる好ましくない色素成分や着色物質を無色にして白く、きれいで鮮明な色調に整える役割です。ようするに漂白剤です。
検疫所の過去の記録として、ツバメの巣を輸入する際に、保存剤として安息香酸やソルビン酸を添加した業者が、検疫所の検査で規制基準値を超えたものが発覚。水際で輸入不許可となりました。またツバメの巣には羽などの異物が混入しているので、それを手作業で地道に根気よく取り除き、クリーニングして行くのは手間でありコストも発生します。
そのコストを抑えるため、手作業でのクリーニングはほどほどにし、羽根等の異物の除去の不完全なツバメの巣を二酸化硫黄で漂白し、きれいな色形に見せかけて輸出されたものも発覚して輸入不許可となっています。
基準値を超えた防腐剤としての安息香酸やソルビン酸、ましてや漂白剤に浸かったツバメの巣を人が食すれば、体に何らかの影響があってもおかしくはありません。このような前例があるので、アナツバメの巣の輸入に関しては大変厳しい態度だったのです。
国は日々、国民の食の安全を守るために地道な仕事をしているのだとつくづく思いました。
それゆえに、当初はお役所仕事の意地悪な対応だと思いましたが、立場を変えて考えると大変納得のいく内容でした。
ここで感心ばかりしてはいられません。
なぜなら、ツバメの巣の輸入を実現するには、現地に行き調査しなければならない状況になったからです。実はこれが何よりも最大の難関です。それは、誰もがアナツバメの巣の採取場所へ行けるわけではないからです。
アナツバメの巣は、一部の観光用と商業用で開放している箇所以外は、その場所を特定することは中々出来ません。秘匿性が大変高いのです。
また、仮にその場所が判明したとしても、セキュリティーは非常に厳格であり、まずその場所へたどり着くことが非常に困難です。国にもよりますが、場所によっては、盗難防止のために、周囲を自動小銃やショットガンで武装するガードマンがいます。
それほど高価で貴重な食材の証なのです。
日本人がインドネシアにいきなりアナツバメの巣を探し回って、現地に辿り着くなど不可能です。さらに、それがカリマンタン島となれば尚更です。
カリマンタン島というと、“島”がつくので小さな島をイメージしがちですが、国土は何と日本の1.62倍の広さ。オランウータンの生息地としても知られ、未だに人が踏み入れた事の無いジャングルが存在している所で新種の生物が発見されるという場所でもあります。