ツバメの巣ストーリー

ツバメの巣ストーリー(10)赤道直下 編

ホテルを出発し、市内から郊外へと向かう途中に北緯0度の記念塔がありました。その前で一応記念撮影を。カリマンタン島は赤道直下の北緯0度です。地球のおへそにいるような気分です。これも初めての貴重な体験。

北緯0度地点

余談ですが、そういえば海洋冒険家の白石康次郎氏が、世界レースのヴァンデ・グローブで赤道直下に入ると、突然風が止み凪になるそうで、ヨットマンを悩ますといっていました。

再び出発し、市内を離れ郊外になるにつれて民家やお店がまばらになって来ます。残念ながら途中の撮影もNGということで、その辺りの撮影は出来ませんでした。

郊外に入ると信号はありません。車で20分も走ると、ガソリンスタンドとは別に掘っ立て小屋のような所で、ポリタンクを並べて販売している箇所が随分と見受けられます。
聞くと、ポリタンクにガソリンを入れて販売しているようです。揮発性の高いガソリンを、赤道直下の沿道で商売しているとは驚きです。まず絶対日本ではありえない光景です。

とにかく道中に信号がありません。信号が無いだけでなく。運転中は右折ウィンカーをずっと出しっぱなしにしているのです。インドネシアも日本と同じく左側通行で、ハンドルは右ハンドルです。当然日本製の車が多いです。右折ウィンカーを出しっぱなしにするのは、前方を走る車に、こちらは急いでいるから追い越すよという合図のようです。前方に車が見えた段階で行えばよい気がしますが、道中ウィンカーが途切れることはありませんでした。(不思議)

 

信号無しの道を時速70㎞~90㎞で走り、1時間近く走ると直線道路の前方で車が渋滞しているのです。渋滞の先はスカスカです。この不思議な渋滞は何?と思い少しずつ進むと何と警察の検問。どうしてこんな郊外のスカスカの道で検問?止められた車はトランクまで開けられて、色々と質問されている様子です。

 

私たちの番が近づくと、トーマス氏おもむろに電話を掛けながら車を降りて行きます。どうなるのだろう~かと多少不安を感じつつ待っていると、笑顔のトーマス氏がノープロブレムと言いつつ戻ってきました。 何がどうノープロブレムなのか全く分かりません。

 

すると、検問待ちしている車を横に抜き去り出発してしまったのです。

彼曰く、警察の所長が友人なので、電話して検問をパスしたようです。目が点。意味が分かりません。場所によっては、検問という名の賄賂の収穫場所と後で聞きました。その検問を電話一本でくぐり抜ける彼の人脈です。

 

その後1時間半近く経過してドライブインで休息兼昼食をとります。静かな場所です。そよ風の音とヤシの木の葉がゆらぐ音しかしません。時間が止まっているようです。

 

昼食後出発すると、全く民家の無いジャングル沿いを走る事になります。

途中小さな川沿いに家があるのが見えるのですが、おそらくその川は全ての生活用水として利用しているのは想像に難くありません。そこでは衛生的なことは考えない方がよいです。生活用水の炊事選択、お風呂、トイレと全て同じ川の水です。

 

さらに進むと、道路から奥へ10mも行くと深い密林ジャングルです。サンサンと輝く太陽の光が届いていなく暗がりなのは、はたから見てもわかります。

ここで、埋められてしまうと絶対に見つからないし分からないよねと、先輩と顔を引きつらせながら笑った記憶がよみがえります。

さらに車を走らせると、民家や露店ちらほら見え出し街の入り口に差し掛かったのが分かります。1時間半以上ウィンカー出しっぱなしで走ったのち、街へ到着です。ここではトイレ休憩兼軽食となりカフェに入ります。

カフェ カフェのトイレ

まずはトイレです。便座と水を貯めたタライとヒシャクが用意されています。トイレの用を済ませると、便器にはヒシャクで水を汲み流すという方法です。

カフェでは、例の濃いコーヒーと美味しいトロピカルスィーツを堪能しました。

カフェブレイクの後出発し、さらに40分ほど車を走らせると、とても大きな軍の看板が現れます。よく見ると、今朝お会いした将軍がでかでかと載っています。本当に権力者なのだと改めて認識。この将軍の看板絵から車中で話が盛り上がりました。

私たちは、タバコは吸わないですし、ここ二日間トーマス夫妻と一緒に過ごしていて、分かっているとは思うのですが、トーマス氏がおもむろに私たちにタバコは吸わないよねと念押しをしてきました。当然Yesと答えたところ、彼がツバメの特性について話をしてくれました。 もちろん日本にいるツバメとは種類が違うアナツバメについてです。

ツバメは匂いと音に非常に敏感だそうです。ですから、喫煙者は営巣(バーズハウス)の中に入ることはできません。女性もお化粧をしていると中に入ることはできません。それほど敏感だそうです。そして、午前10時くらいから午後14時の間に営巣(バーズハウス)から外へ餌を捕食しに飛び立つそうです。

この4時間くらいの間に、巣立った後の巣を脚立に登りヘラで巣を採取するそうです。巣を採取する職人さんに喫煙者はいません。室内での作業なので汗をかきます。1時間半作業したら外で健康チェックの血圧測定し衣服を着替えます。

この時、日本の柔軟剤のようなもので洗濯したものは不可です。汗くさいシャツを水洗いしただけのシャツに着替えて再度営巣(バーズハウス)内に入るようです。

内部では煌々とライトを照らすことはできません。懐中電灯を必要最小限しか使わずに慎重に採取するのです。そして、午後14時過ぎるとツバメが次々の巣に戻ってくるので、その前に作業を終了させて撤収するそうです。まだ営巣(バーズハウス)を見たこと無い私には、この説明だけではピンときません。ただ、ツバメは匂いと音と光に敏感だから気を付けるようにとトーマス氏が強調するのが印象的でした。

その後、20分ほど車を走らせると、いよいよ営巣(バーズハウス)に近づいてきました。しかし、行く途中とある場所で駐車し私たちは車内で15分ほど待たされました。

後で聞くと、実はトーマス君の父親が最後の最後まで営巣(バーズハウス)の現地調査での許可を渋っていたらしいのです。私たちがわざわざ日本から現地まで来ているということで、説得してようやく許可が出たということらしいのです。

と、いうことは、もし許可が下りなければ何のために飛行機と船と車を乗り継いで、ここまで来たの?という状況一歩手間であったのが事実です。もうハラハラものでした。

そうして、いよいよ営巣(バーズハウス)へ行くことになります。営巣(バーズハウス)を見るのは初めての経験なので、どれくらいの大きさかは養鶏場の大きさの2階建て程度と自分で勝手に想像していました。

営巣(バーズハウス)の詳しい場所は、当然極秘です。現地の人も近寄れません。と、いうより近寄らない理由があるようです。

営巣(バーズハウス)に行く途中、道路沿いの小さな看板に「Thomas street」というものが目に入りました。そうです。トーマス家の名前がついた通りなのです。途中十字架を掲げる教会がありました。インドネシアはイスラム教徒の多い国です。ここで教会とは珍しいと思っていると、なんとこの教会はトーマス家専用の教会だそうです。もうびっくりです。そして毎週日曜日に礼拝にいくそうです。

さらに郊外へ車を走らせると、営巣(バーズハウス)までの道中にちらほら民家が見えます。どうしてこんなところに民家が?と。不思議に思っていると、その民家は、実は従業員の家族のお家であり、何と普段から営巣(バーズハウス)を監視しているのです。付近に不審な人物や車両を見つけると、直ちに通報するシステムで、昔の日本の忍者の里のようなシステムになっているのです。

 

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